開封した生クリームは何日もつ?
期待に沿わない答えかもしれませんが、この問いにいちばん正確に答えているのは、このページではなく手元のパックです。生クリームのパックにはほぼ必ず「開封後は賞味期限にかかわらず、お早めにお使いください」と書かれていて、具体的な日数まで書いてあるものもあります。その数字はどんな一般論よりも信頼できます。メーカーは自社のクリームがどんな殺菌をしたものかを知っていますが、一般論は知らないからです。ここで書くのは、なぜ商品によって日数がこれほど違うのか、そして具体的な日数の記載がないときに自分でどう判断するか、という話です。
賞味期限が、開けた瞬間に効かなくなる理由
パックに印刷された賞味期限は、未開封で、表示どおりに冷蔵保存された状態を説明しています。封を切った瞬間、その前提が崩れます。空気が入り、注ぎ口や、スプーンや、台所にあるものが一緒に入ります。そして乳製品であるクリームは、それらにとってかなり居心地のよい場所です。そこから動き出すのは、どこにも印刷されていない別の時計です。開封後の牛乳とまったく同じ構造で、同じ日付が印刷された二つのパックでも、開けた日が一週間違えば、傷む日も別々になります。
日数を決めている三つの要素
乳脂肪分。菌には水が必要で、クリームは牛乳よりずっと少ない水の中に脂肪が分散したものです。乳脂肪分45%前後の高脂肪タイプは、35%前後のものよりも菌が使える水が少なく、その分だけ持ちも長くなる傾向があります。脂肪分が低くなるほど牛乳に近い振る舞いをするのは、化学的に実際に牛乳へ近づいていくからです。
殺菌方法。超高温殺菌(UHT)のクリームは、未開封であれば賞味期限がかなり長く設定されています。低温殺菌のものは風味が良い代わりに、未開封の期限が短いのが普通です。ただし、この差はほぼ「未開封」という前提の話です。いったん開けてしまえば、UHTのクリームも口の開いた新鮮な乳製品にすぎません。賞味期限が一か月先のパックにも「開封後はお早めに」と書かれているのは、印刷ミスではなくそういう意味です。
発酵しているかどうか。サワークリームやクレームフレーシュは、乳酸菌で意図的に発酵させたものです。pHが下がったパックの中は、ほかの菌にとってあまり居心地のよくない環境になります。だから発酵させたクリームは、甘いままの生クリームより開封後の持ちが長めになります。ヨーグルトや漬物が日持ちするのと同じ理屈で、たまたまおいしくもある保存方法です。
もうひとつ分けて考えるべきものがあります。植物性のホイップクリームは別の製品です。「乳等を主要原料とする食品」と表示されているものや、植物性脂肪を使ったホイップ用製品は、原材料も安定剤も保存条件も純生クリームとは違います。そちらはパック自身の表示だけに従ってください。
家の中で、静かに日数を削っているもの
温度の影響がいちばん大きい。数度高いだけで、菌の増え方ははっきり速くなります。冷蔵庫のドアポケットは庫内でもっとも温度が高く、開けるたびに室温側へ振れます。ドアに入れたパックは、中段の奥に置いた同じパックより速い時計で動いていることになります。誰も間違ったことをしていなくても、です。
すくうたびに何かが入る。口をつけたスプーンでサワークリームをすくったり、計量カップに出して余った分をパックに戻したりすると、そのたびに新しい菌が加わります。清潔なスプーンを使うことと、注ぐときにパックの口を鍋に当てないことは、コストがゼロです。
台の上に出ている時間はただではありません。スープを作るあいだの二十分は、冷蔵庫での数時間分に相当します。一週間に何度か少しずつ使えば、それは積み上がっていきます。
自分で見分ける方法
ここでは五感のほうが印字された日付より役に立ちます。目の前のそのパックについて語っているからです。
- まず匂い。甘いクリームが傷むと、酸っぱい、つんとした匂いになります。気づけないほど微妙ではありません。問題のないクリームは、かすかな乳の香りだけで、ほかの匂いはほとんどしません。
- 次に質感。ぼそぼそと固まっている、または混ぜても戻らない水分が分離しているものは、そこで終わりです。振動で少しとろみが増しただけの状態とは別物です。
- 注ぎ口とフタを確認する。クリームにカビが出たら、その部分だけでなくパックごと処分します。柔らかく水分の多い食品では、カビは見えている場所だけにとどまりません。
- 最後にごく少量だけ味をみる。匂いも見た目も問題なければ、ほんの少し味をみるのは妥当な最終確認です。傷みかけたクリームは、口にして不快になるずっと前に、鋭い酸味を出します。
- 発酵タイプは基準を変える。サワークリームはもともと酸っぱいので、「酸っぱい匂い」の判断はほとんど使えません。見るべきはカビ、発泡や酒のような匂い、苦み、はっきりした黄変です。
もうひとつ知っておくと役に立つのは、泡立たないクリームは、多くの場合「品質」の問題であって、必ずしも傷んでいるわけではないということです。古くなったクリームは泡立ちが悪くなりますが、温度が高すぎるときや、そもそも乳脂肪分が足りないときも同じように泡立ちません。ホイップの失敗は「一度パックを確認したほうがいい」という合図であって、判決ではありません。そして日付と匂いと見た目の言うことが食い違うときは、保守的なほうを選ぶのが正解です。一般的な日数は、そのパックが実際に何を経験したかまでは説明できません。
半分残ったパックをどうするか
生クリームの厄介なところは、レシピが使うのは少しだけで、たいてい大半が残ることです。その残りは解決すべき問題というより、まだ役割の決まっていない食材です。まだ十分に状態のよいうちなら、スープやポテトのマッシュ、クリームパスタ、卵料理、焼き菓子に自然に消えていきます。これはクリームがもともとそういう料理に向いているからであって、加熱すれば傷んだクリームが救えるからではありません。それはできません。
冷凍は現実的な逃げ道ですが、正直に書いておくべき代償がひとつあります。生クリームは冷凍できますが、解凍するとざらついて分離した質感になります。低温で脂肪と水分が別れてしまうためです。温かい料理に混ぜ込むぶんにはほとんど問題になりませんが、ホイップするつもりだったなら致命的です。製氷皿で小分けにして凍らせ、袋にまとめておくと、必要な分だけ使えます。凍らせるなら、期限ぎりぎりの最後の手段としてではなく、まだ状態のよいうちに。冷凍は時計を止めるだけで、巻き戻してはくれません。
記憶だけでは、どうしても難しい部分
ここに難しい理屈はありません。覚えていられないのは、たったひとつの事実だけです。そのパックを開けたのがいつだったか。開けて三日のクリームと、開けて九日のクリームは、見た目では区別がつきません。しかも共用のキッチンでは、今夜料理をする人が、日曜にそのパックを開けた人とは限りません。いちばん安上がりな解決は、パックの側面に開けた日を書いてしまうことです。答えようのなかった問いが、二秒で終わる問いに変わります。
Munch の「開封済み」の記録も、まさにこのためのものです。開封としてマークすると、その日から未開封時の期限とは別の、より短いカウントダウンに切り替わります。家族全員が同じリストを見ているので、冷蔵庫の奥のクリームが、最初に注いだのが何曜日の夜だったかという誰か一人の記憶に頼らずに済みます。
クリームの種類ごとに保存日数の表を覚える必要はありません。必要なのは、見える場所に書かれた日付ひとつと、手元のものが甘いクリームか発酵タイプか、脂肪分が高いか低いかというおおまかな把握と、日付と鼻の言うことが違ったときに鼻を信じる姿勢だけです。